原田マハ『楽園のカンヴァス』

5.0
Book

原田マハ
楽園のカンヴァス
(新潮社)

特別に好きな作家やジャンルがあるわけでもない、ライトな読書ユーザーの私にとっては、文庫版の本を買うのは、なかなかハードルが高いんですね。本棚にどわーっと並んだ背表紙しか見えない状態では、もう、どれを選んで良いのかわからなくて。

ついつい新刊メインになってしまうのですが、そんな中でも、何か文庫版で面白そうな小説とかないかな、と色々と探している中で、原田マハさんの幾つかの小説を知る事になって、特に興味が湧いた本作品を読んでみました。

2012年の作品なので、今更って感じてもありますが、いやぁ、とにかく「面白かった」につきます。
当時、話題になったそうですが、「そりゃそうだろう」ってぐらい、小説らしい小説というか、グイグイと物語の世界に落ちていけました。

〝ミステリー作品〟として紹介されていて、でも、美術の絵画に関する事で、「はて?、ミステリー??」という印象を持ちながら読み始めました。

モノの見事に、〝ミステリー〟でした(笑)

なんて言うんだろう、とてもとてもファンタジーなミステリーともいえるし、凄く人間の命が宿ったような重いミステリーともいるか、みたいな。
人が死んだり、何かが破壊されたり、犯人探しをするような、そんなミステリーではなくて。

実在する画家アンリ・ルソーの作品を巡るミステリー。

主人公の一人、実は世界的なルソー研究家として知られながら、今は素性を隠して細々と生活している早川織絵。
ひょんな事から再び、ルソーに関わる事になってしまい、自分がルソー研究家として活動していた過去を回想するところから話は始まる。

そこでは、もう一人の主人公であり、同じルソー研究家としてライバルになる、ティム・ブラウンとの出会いから、ルソー最後の作品【夢】(実在、ニューヨーク近代美術館に所蔵)と、瓜二つな、そして微妙に違いがある【夢を見た】という、まだ世に知られていない作品の存在。そして、この【夢を見た】という作品は、本当にルソーが描いたのか?

二人の主人公が、謎めいた伝説の絵画コレクター、コンラート・バイラ―から鑑定の依頼を受ける。

しかし、【夢を見た】という作品を目にする事が許されたのは、招かれた最初の1回だけで、それ以降は【夢を見た】という作品にまつわる7篇からなる〝物語〟を、1日1篇読み進めて、7日目に鑑定結果を出せ、という、これまた謎めいた条件。

〝物語〟は、まるでルソーの自伝のようなストーリーが書かれていて、徐々に【夢】という最後の作品制作への過程が綴られている。

ルソーの理解者であったピカソも登場する7篇の〝物語〟という過去と、二人の主人公が考察する現代が交錯し、更にこの真意不明の【夢を見た】をビジネスとして手に入れようと暗躍する人達。

二人の主人公は互いにライバルとして主張を戦わせながら、徐々に【夢を見た】という作品の本質に迫っていく事になります。

実は最後まで読んでも【夢を見た】という作品が、本物か偽物か、という具体的な判断は無かったと思います。

二人の主人公は、7日目にそれぞれの主張を出して、確かに本物か偽物か、結論は述べているのですが、その段階で既に「本物か偽物」というのは、この作品には意味を持たない、という認識は二人の主人公の共通認識となっているように思うんですよね。

この謎めいた絵画コレクターも、本物か偽物なんて、とっくに結論を出していたはずだと思うんですよ。

それでも、今、この二人しかいない、といえるルソー研究家を呼び寄せたのは、作品が本物か偽物という事よりも、作品の描かれた背景を語って欲しかったのかな、と。それこそ、二人の主人公が読まされた7篇からなる〝物語〟で、その事について、深くルソー研究家の二人と共感したかったんじゃないかな、と。

そういう意味では、【夢を見た】という作品は、正にルソーの作品という評価なのでしょう。
もちろん、【夢を見た】という作品は実在しませんが。

そして話は現代に戻って、早川織絵は何年振り(10年ぐらい?)に、その〝ひょんな事〟でニューヨーク近代美術館へ訪れる事になり、ティム・ブラウンと再会するところで終わります。

いやー、この先が読みたいんだよ、って思いながらも小説は終わってしまう。

この小説の核心部分は、7篇からなる〝物語〟で、読み手が得られる情報は、この二人の主人公と同じ条件。それゆえに、この【夢を見た】という作品が本物なのか偽物なのか、読み手も考えながら読むことになる。

二人の主人公は、それぞれの立場で意見を出しますが、そこに読み手の〝意見〟の入る余地があるような気がして、本当の真実は何処にあるのか、必ずしも小説の結末だけが真実ではないような気がして、そこはとてもとてもミステリーしているなと感じました。

そしてなにより、この二人の主人公の肩書きでもある〝キュレーター〟、著者の原田マハさん御自身も森美術館やニューヨーク近代美術館で勤務していた経歴を持ってらっしゃるところから来る説得力自体が半端ない、という。

うむ。
他にも原田マハさんの作品は読んでみたいものが出てきたので、どのタイミングになるかわからないですけど、また読もう。

本絡みの記事は以下にまとめてます。

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