嶋津輝
『カフェーの帰り道』
(東京創元社)
特に買いたい本があるわけでもなく本屋に立ち寄った時に本書が目に止まって、「ふーん」と思っていたのですが、そういえば芥川賞作品は読んだ事あるけど、直木賞作品は読んだ事は無かったなと思い購入。
ちょっと切なく、ちょっと心が騒ついたり、そしてホッコリする作品でした。

舞台は東京・上野の下町、戦前から戦後辺りの時代背景。
この頃の〝カフェー〟と呼ばれていたお店は明確な法律も無かったようなので、女性が接客するという事から、今でいう喫茶店からキャバレーや性風俗系まで混沌としていたようですね。
この小説では、もちろん今でいう喫茶店、通称〝カフェー西行〟というお店に勤める女給(ウェイトレス)達の物語。
戦前から戦後と時間が流れる中、カフェー西行で勤める女給は、入っては辞めていきます。
それぞれに、それぞれの人生があり、その人生の束の間の間、カフェー西行で仕事をしていく。
時間が過ぎると共に、人は歳を重ね色々な経験をしていく。
でも、いつもカフェー西行というお店は、そこにある。
5篇の短編からなる小説でそれぞれ主人公が違いますが、みな全員、カフェー西行で女給として勤めた女性たち。
中には同時期に勤めていた同僚だったり、時期的に重なっていない者同士だったり。
一人一人の主人公には、それぞれの人生があって、そう何もかも上手くいく人生なんて無い。
理不尽だったり時代に逆らえなかったり、辛い事が起こる。
文章もカフェー西行というお店も、とても優しく読み手を包み込んでくれる雰囲気なのに、その中で生きている主人公達には辛い現実が突きつけられる。
読んでいると、とても落ち着いて穏やかな気持ちでいるはずなのに、心の何処ががザワつく。
なんともいえない気持ちになってくる。
それでも歳をとって良い大人になった、かつてカフェー西行で女給として働いていた主人公達が、なんとか戦争からも生き延びてカフェー西行に集っている場面には、「終わりよければ、なんとやら」という言葉が頭の中に浮かぶ。
個人的に、おっさん一人カフェで、ランチをしたりスイーツしたり本を読んだりする事を好きでやっているのですが、そこで使うお金って、せいぜい1,000円から多くても2,000円程度で、小一時間かもうちょっとゆっくりする感じで時間を使っている。
考えてみれば、贅沢な時間だなと思うんですよね。
取り立ててランチの料理やスイーツにコーヒー等にウンチク言うほどの知識なく、美味しいっていう感想しか出てこない程度なんですが、こうやって過ごす時間自体が好きというか、贅沢だな、と。
そんなカフェーが舞台。
とりあえず、「帰り道のカフェーでカフェーの帰り道を読む」という事が出来たので、大満足です(違)

本絡みの記事は以下にまとめてます。

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