森 博嗣『スカイ・クロラ (The Sky Crawlers)』

4.0
Book

森 博嗣
スカイ・クロラ (The Sky Crawlers)
(中公文庫)

元々は、押井守監督の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』を観ていて、原作は小説と知っていたものの、それ以上アレコレと調べたりもしなかったのですが、妙に〝引っ掛かって〟いた作品だったので、「そういえば」と思い出して、今更なんですが原作の小説を読んでみようかなと思った次第。

発刊順ではなく、時系列順に読み進めています。

シリーズは短編集を含め全6巻、その5巻目『スカイ・クロラ』(時系列順の最終章)。

以下、ネタバレもあるかと思いますので、まだ読まれた事が無い方は、このへんで(笑)

原作シリーズとしては最終章となる内容でありながら、最初に出版されたのが、この『スカイ・クロラ』で、同名タイトルで押井守監督がアニメーション映画化されたわけですよね。
確か、映画化の時点で、この『スカイ・クロラ』と、時系列では最初の内容になる(そして出版順としては、スカイ・クロラに続いて2作目)『ナ・バ・テア』ぐらいまでが出版されている段階での映画化だったので、原作『スカイ・クロラ』をベースにした脚本で、もちろん映画の結末は原作とは違う。

ただ、違うんですが、、、このシリーズに〝結末〟というものが存在するのか、という話でもあるわけですが。

そもそもなぜ、最終章を最初に出版してから、過去に戻ってからの順序立てての出版だったのかを考えると、永遠に歳を取らない〝キルドレ〟という存在と、歳を取らないが故に延々と同じ事を繰り返している世界観と、しかし、微妙に登場人物の心の揺れ具合や関係性から、確実に〝何か〟変化の兆しが見え隠れするのと、という繰り返しというミニマルな世界の中で、フツフツと湧き出ては消えるような変化が、このシリーズ全体を覆っているような感じで、その辺りは映画版の方は強く印象付けるような脚本になっていたと思うんですね。最初と最後が繋がっているというのか、最初と最後を区別する必要がないのか、でも時間の流れは存在している。

そして、原作としての最終章では、パイロットという立場から管理職という立場になった草薙水素も、管理職という立場も長くなったと思うんですが、一パイロットの立場では見えなかった感じなかった、自分の前に現れては消える多くのパイロット(キルドレ)を見ていくうちに、そのような〝変化〟に気付いて、自分自身の心も強く揺れ動かされていくんですよね。

キルドレとしての存在は死なない限り、延々と同じ事を繰り返している。
だからこそ、死という変化に一種の希望というか、それは幻想なのかもしれないけど、決して死に対してネガティブな感情は持っていない。

そして輪廻転生の如く、何かは受け継がれていく。

最終章『スカイ・クロラ』を読み進めると、今まで遠い存在のように感じていた草薙水素が、とても近く感じれるようになった。
なんだろう。
キルドレではなく、人間なんだな、という感覚。

草薙水素が子供を産んだ事で、キルドレではなくなった、、、という描写がこれまでの作品中にありましたが、その時点では「普通の歳をとる人間」に戻ったと思っていたんですよね。
でも、『スカイ・クロラ』や次の短編集を読み進めると、「あれ?」、と。

キルドレのままじゃないのかな?、と。

でも、確実に堂々巡りの世界観から外へ飛び出した(飛び出そうとしている)草薙水素を感じるんですよね。
そういう意味では、キルドレのままなのかもしれないけど、肉体的な事ではなく、精神的には確実に時間軸が前にだけ進むようになった草薙水素がいるのではないかと。

まあ、こうやって文章を書いてても、自分でも「?」って感じの多い、謎めいた草薙水素と、この『スカイ・クロラ』シリーズだったと思います。

P.S.
どうしても、映画版のおかっぱ草薙水素のイメージが強いんですが、この新装版表紙の草薙水素(たぶん)も、仕事出来る上司感が出てますよね(笑)

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