山口未桜
『禁忌の子』
(東京創元社)
本屋をブラっとしながら、何か新刊で良さそうな本はないかな、と探していたところ、著者である山口未桜さん御本人が本の内容について紹介する店内放送が流れて、〝主人公と瓜二つの死体〟みたいな文言に「ん?」と反応してしまい、どれどれと探したところ『禁忌の子』という、なかなか不穏な雰囲気漂うタイトルで気になったので買ってしまった。
店内放送が流れてなかったら、たぶん買ってなかっただろうなぁ。

面白かったです。
内容は所謂、〝バディ〟物のミステリー。
著者が現役の医師でもある事から、医療現場が舞台となり、二人の医者がコンビとなって謎を解いていく感じです。
導入部分からいっきに謎めいたスタートで、展開も早くて読んでいて引き込まれます。
中盤も終わりかけの頃から、もしかして禁忌の〝子〟とは即ち、主人公なの?、と疑いだして後半に突入すると、ちょっと予想を斜め上へ行く展開が待っていて、「え、禁忌の〝子〟って、いあ、それは、ちょっと」というラストが待っている。
ミステリー小説として、というよりも、もっと違う感覚というか感情を動かされる作品だと思います。読み終わった後、物語の中では、とりあえずは〝ハッピーエンド〟とも言える締めくくりになってまいすが、読者としては素直に喜べない気持ちにさせてくれるでしょう。
基本的に読んで、多かれ少なかれ「面白い」と思った本については、評価を星4つ以上にしているのですが、この小説は星3.5にしました。
面白いですし、人に薦めても良いとも思ってます。
ただ、なんて言うんでしょうか、私の個人的な感覚ですが。
『禁忌の子』というタイトルに、内容が負けているというか。
例えばなんですけど、この小説に登場する人物の全てが絶望を抱き、読者も「読まなければよかった」と読んだ事を後悔するぐらいの絶望感にまでもっていけるだけのコンセプトというか〝禁忌の子〟という設定だと思うのですけども、そうはならずに本質的な問題は描かずに、ライトなミステリー小説になってしまっているのが、もの凄く勿体無いなあ、と思ったわけです。
こんな後味の悪い本、もう二度と読みたくない、っていうぐらいの内容だと思うんですよ、本来であれば。
でも、著者的には、そこが描きたいところでは無いという事もわかるので、これはこれで有りですし、話を最初に戻すと、とても面白い小説なのは間違い無いです。
ちなみに医者にして冷静沈着なシリーズ、第二弾もあるようですね。
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