モジュラー入門・第三回目「音の出し入れ」

モジュラーシンセ

今までは、ずっと音が出っぱなしの状態でパッチングをしていました。
普通、楽器は演奏している時にだけ音が出て、その時以外は音が出ないのが常識ですよね。しかし、モジュラーの場合、全てのモジュールが常に、個々のモジュールの持つルールやタイミングに従って「耳に聴こえる」信号や「耳に聴こえない」信号を出力し続けています。
そのため逆転の発想で、出っぱなしの信号を好きなタイミングで切ってしまう方法で、音を止めたり出したりしてみましょう。


 (図6)
図6では、新しくA-140 ADSR Envelope Gen. (エンベローブ・ジェネレーター)モジュールと、A-131 VCA (exp.)モジュールが登場します。
図6のパッチングを再現する前に、まずはピンク色のパッチングだけをしてみて下さい。
A-110 VCOから好きな波形を選んで、A-131 VCAの“Audio In1”にパッチング。A-131の“Audio Out”からスピーカーへ。この時、A-131の一番上の“Gain”ツマミをゼロにしてみて下さい。どうですか、音が出ませんよね。では、このツマミを10の方向に動かしてみて下さい。徐々に音が出て来たと思います。
(A-131の“Audio In1”ツマミは、10にしておきましょう。もちろん最終の“Out”ツマミも10ですよ)
A-131 VCAは、これまでに出て来た「VCO」や「VCF」という言葉と似ていますね。「VCA」の“VC”は、これまでと同じ意味ですが、この“A”とはアンプの意味です。Doepfer A100シリーズでは、A-130 VCA (Lin.)が「耳に聴こえない」信号に適したモジュールで、このA-131が「耳に聴こえる」信号に適したモジュールとなっています。他にVCA系モジュールは幾つかあります。
「VCO」が音の基となる波形を出力、「VCF」が音の音色を変化、「VCA」がアンプなので音量を変化させる、、、というわけです。
さて、A-131の“Gain”ツマミで音量をコントロール出来る事は分かりましたが、これだけではミキサーのモジュールとやっている事自体は同じですよね。今回は、音を出したり消したりという事をするのが目的です。ここで登場するのが、A-140 ADSRモジュールです。
このA-140 ADSRは「エンベローブ」と呼ばれる、独特の信号を出力してくれます。このエンベローブという信号は、モジュラーの中で最も多用され、様々なアイディアを実現してくれる信号でもあります。
この“ADSR”とは、Attack(アタック)、Decay(ディケイ)、Sustain(サスティン)、Release(リリース)という4つの文字を略したものです。「ADSR」とか「エンベローブ」と呼ばれています。A-140は、あるタイミングで信号を貰うと、この4つを順番に出力していきます。A → D → S → R、、、という感じです。
Attack(アタック)
あるタイミングで信号を貰った瞬間、最大値の信号を発生させます。この時“Attack”ツマミを調整する事によって、その最大値になるまでの時間を調整出来ます。例えば、ゼロに設定しているとタイミングが来たと同時に最大になりますが、このツマミを10の方向に持って行くと、最大値になるまでの時間が、どんどん遅くなって行きます。
Decay(ディケイ)
これは次のSustain(サスティン)に関係するのですが、、、
次のSustainは持続する数値を設定するのですが、このDecayは、Attackの最大値からSustainの持続値まで変化する時間を設定します。ゼロだとAttackで最大値になった瞬間にSustainで設定した持続値に変化しますが、10方向に移動させると最大値から次の持続値までゆっくりした移動になって行きます。
Sustain(サスティン)
他のAttackやDecay、次のRelease(リリース)と違って、唯一、このSustainは移動する時間の設定ではなく、持続値の量を設定します。ここがゼロだと、Attackの最大値からDecayで設定した時間で信号がゼロになります。しかし、10方向に移動する事によって、それに応じた量が持続されて、次のReleaseに引き継がれます。
Release(リリース)
これは、最初に受けたタイミングの終わりを意味します。Sustainからの持続値を受け継いで、もし設定がゼロであるならば、タイミングが終わった瞬間に信号はゼロになります。10方向に移動する事によって、信号がゼロになるまでの時間が遅くなっていきます。
うーん、言葉で説明すると、???って感じですね。
上の説明を鍵盤楽器を弾いている時のイメージで説明してみましょう。
鍵盤を押した瞬間、この瞬間が“タイミング”です。と同時にAttack(アタック)が出力されます。この時、Attackの設定がゼロだと鍵盤を押すと同時に音が出ます。10方向に移動する事によって、鍵盤を押してから徐々に音が出て来ます。
そのまま鍵盤を押し続ける時の音量の変化を、Decay(ディケイ)とSustain(サスティン)で決める事になります。両方の設定を10にしておくと、鍵盤を押している間はずっと、最初のAttackで出力された最大値が持続しますが、この両方の設定を10以外で色々と設定する事によって、鍵盤を押している間に音量が少し小さくなったり、、、という変化を付ける事が出来ます。
Release(リリース)は鍵盤を離した後、“タイミング”が終わった後に音量がゼロになるまでの時間を設定出来ます。ゼロだと鍵盤を離すと同時に音が切れますが、10方向に移動させると余韻を残す感じになって来ます。
えーと、もう説明を読むのはメンドクサイですし、このコーナーの主旨に反する(笑)ので、とりあえず図6のパッチングを再現してみて下さい。
A-145 LFOは必ず矩形波を選んで下さい。前回にお話した通り、矩形波は規則正しいタイミングやテンポに使える波形で、ON/OFF(鍵盤を押す、離すというイメージ)的な動きに使えます。“Frequ.”は遅めに設定してみましょう。
A-145からA-140 ADSRの“Gate(ゲート)”にパッチングします。
この“Gate(ゲート)”は、ある一定(または不規則でも良いのですが)の間で、ON/OFF、ON→持続→OFF、といった動きをする信号の事を指しています。A-145の矩形波をON/OFF(鍵盤を押す、離す)と見立てて、このA-140の“Gate”に入力しているわけですね。
A-140の、“A”はゼロ、“D”と“S”は10、“R”はゼロに設定しておいて下さい。
A-140の“Output”(2つあるうちの、どちらでも同じです)からADSR(エンベローブ)信号が出力されます。これは「耳に聴こえない」信号です。これを、A-131 VCAの“CV1”にパッチング。
この状態でA-131の“Gain”ツマミをゼロにしてみて下さい。
どうですか。♪プー、、、♪プー、、、♪プー、、、という感じで音が切れましたか?
コツはA-145の“Frequ.”を遅めにする事ですよ。“Frequ. Range”スイッチも調整してみて下さい。
上手くいったら、次はA-140の“A”、“D”、“S”、“R”を動かしてみましょう。
変化が分かりやすいのは“A”と“R”です。“A”を10方向に動かしていくと、、、“R”を同じように10方向に動かしていくと、、、
では“A”をゼロ、“R”を3〜5程度に合わせてから、“S”を5程度に合わせて“D”をゼロから10方向に動かしてみて下さい。
なんとなく、ADSRの動きが分かりましたか?
A-140の“Time Range”スイッチは、“A”から“R”までの全体の長さを3段階に調整出来ます。それぞれで試してみて下さい。また、“Inverse Output”は逆転したADSR信号が出力されます。逆転といっても、R→S→D→Aという事ではなくて、それぞれの信号の頭に「-(マイナス)」が付く、負の数値として出力されます。ちょうどミラー反転したようなイメージです。使い所が難しいですが、とても変な効果が期待出来ます。
このようにADSR(エンベローブ)は、ある一定の時間内で「変化」を作り出す事の出来るモジュールです。
今回は音量を切る目的で使用しました。音量に時間的変化を付けたわけですね。では、音程や音色等、他の色々な要素にも時間的変化をADSRを用いる事によって可能になるので、これまでの図1〜図5のセットにADSRを加えてみて、色々なパッチングで実験をしてみて下さい。
 (図7)
さて、図7でいっきにモジュール数も増えて、パッチングも複雑なように見えますが、今までの応用で一般的なアナログ・シンセサイザーを再現したパッチングになっています。
図1〜図6までの説明で、一般的なシンセサイザーに必要なモジュールは全て利用しています。
後はアイディア次第!!、、、なのです(^^;;
この図7は一般的なシンセサイザー風に言うと、、、
「1VCO – 1VCF – 1VCA – 2ADSR – 1LFO」
、、、という構成で、RolandであればSH-2やSH-101のような雰囲気だと思って下さい。でも、パッチングという自由度の高いモジュラーの利点を活かして、この構成だけでもバリエーション豊かな音作りが可能です。
今回の新モジュールは2つ。
A-190 MIDI-to-CV/Gate/Sync Interface(MIDI to CVコンバーター)モジュールと、A-180 Multiples 1モジュールです。
残念ながら多くのモジュラーは、そのままではMIDIに対応していません。
そのため通常のMIDIキーボードでモジュラーを演奏したり、シーケンサーで打ち込みしたりするには、MIDI信号をそれぞれ必要な、CVであったりGateであったりTrigであったりと、変換する装置が必要になって来ます。
これらは一般的に「MIDI to CVコンバーター」と呼ばれています。単体の機種として発売されている物もありますし、シンセ本体に内蔵されている場合もありますが、ここではDoepfer A100モジュラー・シリーズで発売されているA-190モジュールを使用してみる事にしました。
もし、お手持ちで「MIDI to CVコンバーター」があれば、そのCV OutとGate Outを図7のA-190と置き換えて試してみて下さい。
次にA-180ですが、、、これは「マルチプル」と呼ばれる類いのモジュールで、見た目はソケットだけが並んでいるだけの凄く単純なモジュールですね。実は、このモジュールはモジュラーならではの、ちょっと大切なモジュールです。
このマルチプルは、入力と出力の区別が無く、入力された信号は全てミックスされて、空いたソケット全てにミックスされた信号を出力します。
入力した信号をミックスするという意味では、A-138のようなミキサー・モジュールと同じ役目で利用出来るのですが、ミキサー・モジュールと違う点は、「入力した信号の量は調整出来ない」、「ミックスされて出力される信号の量も調整できない」です。あるがままにミックスされて出力されるだけのモジュールが「マルチプル」です。
何も調整出来ないモジュールが、なぜ大切なの?
、、、と思うかもしれません。
このマルチプルで大切なのは、“空いたソケットから、ミックスされた信号が出力される”という点です。
早速。図7のA-180 Multiples 1モジュールを眺めて見て下さい。
・A-190の“Gate”信号から、A-180へパッチングされています。
・A-180から、2つあるA-140にパッチングされています。
A-190の“Gate”はMIDI信号から変換されたGate信号になるわけですから、鍵盤のON/OFFの信号となります。
さて、A-180は入出力の区別がありません。A-190から出力されたGate信号は、A-180には自動的に入力として取り込まれます。
では、2つのA-140にパッチングされている信号は、A-180から見て出力側になるのでしょうか、それとも入力側になるのでしょうか。
答えはA-140側を見て下さい。図6で説明したとおり、A-140の“Gate”は時間のON/OFFを入力するソケットでしたね。
すると、こんな感じに理解出来ます。
A-190 (Gate/出力) → (Gate/入力) A-180 (Gate/出力) → (Gate/入力) A-140
A-180から、2つのA-140にパッチングされている信号は、A-180から見て出力になるわけです。
A-190からのGate信号は、A-180に入力されます。他にミックスされる信号が無いので、そのまま空いた(全8個あるうちの残った)7個のソケットに同じA-190からのGate信号が出力される仕組みです。
長々と説明しましたが、これは「1つの信号で同時に複数のモジュールをコントロールする」という事になります。
図7では、A-190から出力された1つのGate信号で、2つのA-140をコントロールしているパッチングになるわけです。
また、A-190からのCV出力は音程に利用しているので、A-110のCVにパッチングしていますね。
まずは実線を参考にしてパッチングすると、鍵盤で弾いたり打ち込みでコントロール出来るパッチングになります。それから破線のパッチングを参考にして、複雑なパッチングにチャレンジしてみて下さい。
P.S.
図7では描かれていませんが、例えばA-190から出力されたGate信号とA-145の矩形波の出力を、A-180にパッチングしてみると、どうなるでしょう?
「マルチプル」は凄く単純な仕様のモジュールですが、複雑で奇想天外なパッチング時には、無くては成らないモジュールなのです。

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